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講師・受講生紹介

宮澤郁夫

宮澤郁夫

昭和21年長野県安曇野市三郷生まれ。同48年職人として、山共建設の仕事で東京新宿区に80坪の住宅、茶室の工事に携わる。その後京都伝統建築技術協会創立時に入会、数寄屋や書院建築を学ぶ。
山共建設・降幡廣信氏の仕事で新潟より移築再生を始めとし県内各地で施工。2010年にはパリ市郊外ルイビトン社経営のテーマパーク内への民家再生を行う。

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目的地から逆に辿るのではない。基礎の延長線に仕事はある。

2011年11月、宮澤さんが施工した「伝統構法で造る土壁の家」が松川村に完成しました。金物や筋交いを使わない木組みと土壁で造られた家は、大きな屋根に覆われた腰の低い佇まい。土間から繋がる日常生活の場、力強い骨組みと大黒柱-。施主と設計士、そして宮澤さんの三者の交流から築き上げられた家です。

宮澤郁夫さん

「三者の思いをそれぞれはっきりさせてから造り始めることができたので、いいかたちになりました。特に施主さんが『伝統構法で土壁の家』ということを強く思い描いていたことが軸になったと思います。施主さんになり代わり技術を提供することや、設計士さんが描いたことをかたちにしていくことも職人の大事な仕事の一つ。三者で話しながら気持ち良く進めることができました。
やはり、自分たちでやったものがそのままのかたちで残るということは嬉しいですね。結局、仕上がってみると壁にクロスを貼ったり、既製品のドアが入ったりしてしまうことが多いので。自分たちの仕事がこれほど目に見える状態で完成することはなかなかありません。
もちろん伝統的な技能構法を身に付けたからといって、そればかりで造れるわけではありません。私たちもこういう家は久しぶり。若い衆の中には(伝統構法での施工は)初めてという者もいましたが、それほど問題なくできました。それは日常の仕事の中に、ぽつんぽつんとそういうものを入れているからなのでしょう。どこかできちんと入れることが必要だと改めて思いました」

宮澤さんは20代後半、民家再生の第一人者と言われる降幡廣信氏に出会い、茶室の施工に携わります。自ら茶道を習いに出向いて挑んだ現場。そこで数寄屋造りの面白さにひかれます。

「茶室というのは(制約はあるが)細かく決められた寸法はなく、使う建築材料もさまざまなので、自分の発想を出しやすい部分があります。黒木(皮の付いたままの木材)で生まれる表情や、銘木と呼ばれるものを多用する緊張感、日常的な仕事とはかけ離れている世界に入れる点なども面白さですね。
茶室は一見、華奢で繊細なものです。でも見えない部分で構造はしっかりしている。華奢な中に凛とした優しさを出すというか、相反するバランス、柱の太さ、壁の厚さ、強度...。強度も繊細さも兼ね備えた建物というのは難しいですが、それも面白さになるのだと思います」

宮澤さんは本格的な茶室をいくつか施工し、数奇屋造りや書院建築を深く学んでいきます。しかし、茶室ばかりを造れるわけではありません。そこで学んだことを普段の仕事にどのように活かしているのでしょうか。

伝統構法で造る土壁の家

「そのまま応用するということは難しいですよね。だけど、木造の建物であれば、技術的なことは共通する部分もあります。『培った部分をどこにどう使おう』と考えられるのは、基本に学んだものが根底に行き渡っているからこそできることだと思います。
今の若い人が、こういうものと縁がないところに入ってしまうと、基本ができなくなってしまう。私は、大工の腕の見せ所は、7~8割が建前までに出ると思います。木を選んで、どの木をどこに使うか見極めて、あとは墨を付け、刻んで建てる。今はプレカットが多いですが、それだけだと根底に必要な部分を省略して、「取りつけもの」になってしまいます。機械で刻んだものに部材を合わせていくなら、構造材より造作材のほうが扱いやすい。造作材は木がいいから、作業しやすいし、どんどん組み立てていける。でも...それだけでは大工のトータル的な技術は身に付きにくいですよね」

例えるなら、プラモデルを買ってきて、パーツを切り離して組み立てるだけの状態。もちろん接着剤の付け方一つでも上手な人と下手な人がいるので、仕上がりに違いは出ます。でも、それだけでは細かな技術は身に付いても、もっと広い範囲で見た「大工の技術」は備わらないのでは...と宮澤さんは危惧します。

宮澤郁夫さん

「私は基本がそのまま伝統(技法)と考えてもいいような気がします。基本というのは身に付ける、というか、くせをつけておくようなもの。だいたい、道具の扱い方や木の見方は特別習うようなものではないですよね。小僧として入って、親方や兄弟子の道具を触ったり見たりする中で自分の道具との比較ができてくる。木に触れて、木の見方を知る。そうして年季が明けて、皆、大工としてやっていける目処が立つ程度の技術レベルになるわけです。
でも、そうして10年、15年と経った職人が、ノミの研ぎ方からと言われても、なかなか素直にできないですよね。人間というのは段階があるから、高校生になったときに『もう一度小学校1年生のことをやれ』と言われれば、やる気が削げてしまう。基礎の間にしっかりやるくせをつけてしまわないと、やり直すというのは相当努力しないと難しいことです」

多くの人が成り行きに任せて何となく過ごしてしまう中で、再び学ぼうとやってくる受講生の気持ちを思うと、逆に感心させられるという宮澤さん。

「基礎というのは、その延長線が仕事につながっていく。その先は実際は見えません。目的地から逆にコースを辿るということも方法の一つかもしれないが、それでは地に足がついていない仕事になってしまいます。道具にしても『必要になったら持つ』のではなくて、『持っているから必要な仕事ができる』ということ。道具も技術もいかに持っているかということが大切だと思います。職人学校へ来て、道具が増えて技術も身に付けて...そうすると、それを使う場ができるということを知ってほしいですね」

伝統構法で作る土壁の家・フォトギャラリー

伝統構法の家
伝統構法の家
伝統構法の家
伝統構法の家
伝統構法の家
伝統構法の家
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